「血」を大事にする「韓国人」&「場」を大事にする「日本人」
2014年5月11日
数年前、ソウル市内のあるホテルで行われた「某家」の結婚式に出席したら、韓国の女優さんによく似ている美形の女性が「朴」と同テーブルに座っていた。気になり「〇〇さん」に訊いたところ、
〇〇さん : 「某家」の娘なの。
朴 : そうなの???私、彼女とは初対面だけど……
〇〇さん : 彼女はヨーロッパに長期留学していたんだから……
朴 : 私も日本で長いから……だって、韓国で暮らしていた時も彼女の存在知らなかったわよ。
〇〇さん : あ~の~う~、実はねえ~、それ~え~、出生の秘密。
だって。
2人の会話は続いたのですが、プライバシーに触れる内容なので以下省略。
韓国語の受講生の皆様から度々、
≪朴先生、韓ドラってなぜ、出生の秘密多いんですか?≫
≪現実の韓国社会って「韓ドラ」の世界みたいなんですかね。≫
など、訊かれますと「朴」は、
≪韓ドラは「フィクション(fiction)☆虚構」ではありますが、現実が反映されていますよ。≫
とお答えします。すると、
≪「朝鮮戦争」の結果生じた「戦争孤児」や「経済的貧困」から「養子」に出された子供が多かったからですよね。≫
と、コメント(comment)される方もいらっしゃいます。
確かに「戦争」や「貧困」も度々「出生の秘密」により構成される「韓ドラ」の一要因ではありますが、その背景には「父系血縁関係」を重視する「儒教文化的」な「社会システム(system)」が深く影響していると言えます。
韓国の血統の良い家は、電話帳のように分厚い『족보 族譜(系譜・系図)』と言うものを何冊も持っています。『族譜』には、数百年以上前の先祖代々の「過去史」が解るように祖先と子孫の「名前」や「生没年」「肩書」「行跡」「墓所」等が詳しく記されているものもあれば、祖先と子孫の血縁の継続状態を分かり易く図示し、「略式」に作られているものもあります。
しかし、基本的には「父系血統」をベースとした、徹底した「男性中心の系図」で、『族譜』は韓国社会を理解する「キーワード(Key Word)」にもなります。
中国の「周」時代に「宗法」として確立し、「後漢」時代に「王室」の「系譜」を記録したのが始まりとされている「族譜」は、朝鮮半島では「高麗時代」から編纂し始められたらしいですが、韓国に現存する「最古の族譜」は1476年発刊された「안동 권씨☆安東 權氏」の『族譜』と言われています。※(안동 アンドン 安東☆권 クォン 權)
『族譜』編纂の目的は、
①同姓(同本)不婚、階級内婚制(上流階級で階級の近い人と結婚すること)の強化
②家系の先祖の順(序列)及び尊卑区別の明確化
③嫡出子と庶子の区分
④親戚間の遠近を測る尺度としての機能
⑤(同族の)党派別の明確化
等々…らしいですが、日本の三種の神器「鏡・剣・勾玉」を所持することが正統たる「天皇」の証である如く、朝鮮時代の「양반 ヤンバン 両班」(選ばれた階級)は『族譜』を正統たる身分を示す「証明書」として所有していなければならなかったのです。
「戸籍謄本」は市区町村の役場で管理していますが、『族譜』は始祖を同じくする父系の血縁集団である「문중 ムンジュン 門中」(本貫を同じくする同姓の集団)で記録・管理されます。
『族譜』記載には超厳しい「ルール」があり、女性(祖母、母、娘、嫁、孫娘など)の「名」は『族譜』には記入しないのが鉄則だったそうで、その例として
★ 男性(息子)の配偶者のことについて記入する際には、「配」と書き、女性の「本貫」と「苗字」のみを記し、その女性の父親の「名」と「肩書」を書く。
「例:配・安東・ 權氏・家光・父・秀忠・祖父・家康・中日新聞社部長…」
★ 女性(娘)の場合は「女」と書き、この娘の「夫」の「本貫」と「姓」「名」を記す。
「例:夫・全州・李氏・秀長・父・秀吉・祖父・秀高…」
また、
★ 男性の「名」を載せる場合は、「門中」で決められている、「항렬자 ハンリョルジャ 行列字(序列字)」を必ず「名」に入れる。※(詳しくは、2014年3月6日の「韓国人の名前は暗号だよ!!」を見てね ~♪
★「妾」の産んだ子「庶子」は「承嫡」と記す。
★ 朝鮮時代からの「慣習法」では「異姓不養の原則」、つまり「姓」や「本貫」が異なる子を養子として迎え入れる事は認められていなかったため、もし「男の子」が生まれなかった場合は「絶家」するので、「同姓同本」(同族)の中から男子を養子として迎え、『族譜』に「繼子」又は「系子」と記す。
等々……めちゃややこしいですよ ~。
ちなみに、今年の3月に一時帰国した際、偶々「亡き母」の親戚から「안동・권씨☆安東・權氏」の『族譜』を見せられたけど、「儒学」に通じている「特権階級」の所有物らしく、「朴」はまるで『中国語辞典』見ているようでさっぱり解らなかったのに、知ったかぶりをして「幸 ヘン」の字を「辛 シン」の字と間違えて大声で音読し、恥かいたんだよ~。
日本では、例外を除いては「戸籍」に異なる「苗字」を入れないのが原則のようで、「A家」の女性が「B家」に嫁げば、その女性は「Bさん」となり、離婚して「C家」に嫁げば「Cさん」になり、「バツニ再婚」「バツサン再婚」「バツヨン再婚」………いくら離婚と再婚を繰り返しても現在嫁いでいる「家」の苗字を名乗るのが慣例で、「連れ子」もそれが可能。その逆パターンで、男性が女性の家に嫁ぎ、妻の姓を名乗ることさえ可能ですよね?
一方、韓国では、女性は結婚しても例外を除いて「夫婦別姓」なので、戸籍に異なる苗字が入っているのが一般的で、子供は血の繋がった「実の父」の姓を継ぎ、「姓」は生涯変わらない。其れに、「婿入り・婿養子」制度も認められていない。
故に、「Dさん(女性)」が「Eさん(男性)」と離婚し、「Fさん(男性)」と子連れ再婚すると、家庭内には「Dさん(女性)」「Eさん(連れ子)」「Fさん(男性)」の3つの姓が存在します。もし「Dさん(女性)」と「Fさん(男性)」の間に子供が生まれた場合、異腹兄弟「Eさん(連れ子)」と「Fさん(子供)」は苗字が異なることになります。
★ 日本人の「苗字」の概念は、
≪自分が「現在」属している「家(場)」の一構成員であることを表すもの≫
のように捉えられますが、
★ 韓国人の「姓」の概念は、
≪「血」の繋がった「実の父」ひいては「祖先」が誰なのかを示すもの≫
と言えます。
「血統」をベースとした『족보 族譜』の「清さ」を守るため、「異姓」の人は受け入れることなく、父系単系的な血縁集団を中心とし固く結束していた朝鮮時代の「양반 両班」のものの考え方や習慣は、韓国における「家族関係登録法」が改定・実施される「2008年1月1日」前までに引き継がれてきました。
(続 く)
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