本文へ移動
今井利夫の珈琲三昧

嗜好品の飲み物コーヒー

2020年7月21日

400

店に2重の虹がかかりました!


いつもありがとうございます。

新型コロナウィルのパンデミックによって世界の経済、流通、生活が劇的に変化しています。また、第二波の動向も心配です。日本で収まっても世界で蔓延していますので、これからの経済の立て直しがいつできるのか、できないのか・・、資源がなくどうしても輸出に頼らなければならない日本としては、明日が見えない状況でとても不安な日々が続きますね。

実際に倒産件数は戦後最大といわれているように、経済に及ぼす影響は甚大です。特に宿泊施設、飲食店サービスなどの業種はひどい状況です。また、今回の新型コロナウィルスの感染によって、国民みんながいろいろと制限を受けました。感染の脅威による今までにはない衛生管理、人とのコミュニケーション制限(いろいろな会や飲食店、居酒屋等などの3密空間)、外出しない自粛生活などなど、様々なことが制限され強いられました。

とてもストレスのたまる毎日でしたが、その中でも何とか毎日を生きています。日本はここ数年ITバブルといわれ、ちょっとしたバブルだったように思います。豪勢な食事、高価な車、高価なブランド品など、お金が暮らしの豊かさのバロメーターとなり、みんながみんな豪華とまではいかないにしても、とても豊かな暮らしや物を求めそれに価値を見出していたように思います。その多くは、今回の世界的新型コロナウィルのパンデミック経済が低迷して、ひとまずの終息を迎えたように思います。今回、この長い制限期間によって、「生きる」ということを深く考えさせられ、「生きる」事には、何が必要で、何が必要でないのかを再考できた期間となったように思います。

制限のある暮らしの中で日々のストレスはたまりますが、これからは、この低調になった経済や生活の制限を受け入れ、その中でいかに楽しく暮らしていくのか?がテーマになるのかもしれません。先ずは、ストレスのたまる毎日の癒しに、自宅で「美味しい」珈琲をゆったりと淹れて飲む珈琲時間を持つことをしてみてはいかがでしょうか?

「自宅でコーヒーを淹れて楽しむことはそんなに難しいことではありません!」

ただし、この「美味しい」というフレーズがとても難しいのです。

当店に来られるお客さんで、

「美味しい珈琲をください!」
「美味しい珈琲豆をください!」

と聞かれる方がとても多くいます。実は、珈琲屋として一番難しく困る質問なのです。万人に「美味しいコーヒー!」があるのなら、私が教えてほしいくらいです(笑)

またそんなコーヒーが存在するのであれば、世の中には一種類のコーヒーがあれば良いということになり、当店のように、焙煎濃度の違う、世界各国のコーヒー豆を25種類以上も用意する必要はありません。

では、「美味しい珈琲」「美味しい珈琲豆」とは一体どんなコーヒーなのでしょうか?
人の味覚は様々で、まったく好みが違います。

焙煎濃度によっても香味が全く違うのです!


コーヒーは嗜好品の飲み物


コーヒー、酒、タバコは世界三大嗜好品と言われています。美味しいと感じる基準、好みが個人によって全く違いますし、育った環境、地域、国、人種、時代などによっても全く違うのです。また、豆や焙煎、抽出法、器具によっても全く違った味わいになります。

「すべての人に美味しいというコーヒーは存在しません」

自分の味覚、感性のおもむくままに自分が美味しいと思うコーヒーを、自分が美味しいと思う飲み方で楽しめばよいのです。

今はネット社会ですので、全国の珈琲店から様々なコーヒー豆を手軽に取り寄せることができます。売る側の店にしても、地方にいながら全国や世界をターゲットにして発送販売ができます。ネット検索すると、実にたくさんの様々な珈琲店がいろいろな焙煎豆を販売しています高性能高価格の特別な焙煎機を売り物にしたり、豆を数年倉庫に置いて寝かし、古くして水分を飛ばしてから焙煎する「エイジングコーヒー」だったり、わざわざ焙煎中にでる煙の香りをつけた「スモークコーヒー」だったり、豆を2度焙煎(Wロースト)して、香りは飛びますが、豆面よく柔らかさだけが突出したコーヒーだったり、生豆を水やお湯で洗ってから焙煎するコーヒー・・などなど、挙げればきりがないほどのいろいろな焙煎が施されたコーヒーがあります。どれがいいというわけではなく、それぞれどの店も多くのお客さんに支持されているのです。

要するに今の時代、焙煎不良など欠陥がないものであれば、どんなコーヒーでも「あり」ということなのです。

コーヒーは嗜好品


焙煎士は、自分が「美味しい」と思うコーヒーを開発、焙煎すれば、支持してくれる方が全国には必ずいます。単に売れるからといって、サードウェーブなどの現在流行の味を追うのではなく、自分が「美味しい」と思うコーヒー、誰もやっていないオンリーワンのコーヒーを作ることが、今のネット時代には長く生きていくコツなのかもしれません。そして、その「自分が美味しいと感じるコーヒー」に賛同してくれる方が継続的な顧客となることで、やりがいのある仕事、店となり、楽しく継続できるのです。

いずれにしても味創り、店創りは、自身の理想とする形に向かい進むことに経済も伴わなければならないので簡単ではありませんが、それをクリアーしてこそ皆さんに愛され必要とされる店となるのです。

インド・チクマガロールのコーヒー農園風景~写真提供HIROKO・YAMADA


先回紹介した7 Beans Coffee. IndiaのHIROKO・YAMADAさんからメールをいただきました。

~インドの自社農園のニュークロップが新型コロナウィルで入荷ストップしてしばらく販売することができないので、この機会にほかのインドの味も知っていただこうと、独特な製法で知られている「インドモンスーン」を扱ったところ、

「インドモンスーンは、もともとスカスカのインドの豆を乾燥するので、そんな豆をさらにスカスカになるまで乾燥しても良いものにならない」とある方に言われたそうです。

インドモンスーンはそんな豆ばかりなのかと、とても悲しくなり、インドモンスーンを昔から扱っている私に尋ねてきました。また、私は中煎りに焙煎していますが、今井さんのインドモンスーンはどんな焙煎濃度ですか?と。

私は、日頃思っていることを素直に返信しましたが、今回はそれにもう少し加筆して紹介いたします。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
当店の生豆は、ほとんどがW商社より仕入れています。インドモンスーンは25年以上前から扱っています。

質、状態は毎年違います。確かにクズ豆といわれる豆が多い時もありますし、乾燥が弱い時、強いときなど入荷するたびに様々です。しかし、現地ではそれが当たり前なのです。毎年気候が違いますので出来栄えも違ってくるのです。

特にモンスーンコーヒーは精製に日にちと時間と労力がかかります。また、機械乾燥ではなく自然の貿易風を使った自然乾燥ですので、その年の天候状態によって出来栄えも違ってくるのです。要するに毎年同じものができることは不可能なのです。

イエメンやエチオピアのハラール地区などのように、昔からの製法をかたくなに守り品種改良していない原種といわれるコーヒー豆なども、毎年、気候、国内事情(内戦など・・)などによって出来栄えが大きく違います。しかし、私たちは豆を栽培生産しているわけではありませんので、「それを受け入れる!」という気構えが必要だと思います。

近年はスペシャルティコーヒーの時代ですので、世界基準の良質で新鮮な生豆が世界中から集まってきます。一方、コンビニやファストフード、缶コーヒー、ソリュブル(インスタント)コーヒーなどに多く使われる、コマーシャルコーヒー(低価格品)なども多く輸入されています。そのどちらのコーヒー豆も質の違いこそあれ、コーヒー豆になるまでの工程、過程はほとんど変わることなく多くの人の手によって作られるのです。

珈琲屋は、コーヒー生豆を栽培生産するということに関しては何もできません。先ずは生産者があって、すべてが始まります。それから、輸送業者、輸入商社、店舗、焙煎、抽出などなどを経て、最終的にお客さん(消費者)にご利用いただき初めて珈琲屋として成り立つのです。珈琲豆一つとっても、豆が目の前に存在するまでには、生産から流通迄、何十何百人もの方々の思い、労力などがあり、そして経済が伴いはじめて目の前に存在するのです。

優劣はありますが、多くの方の力によって存在しているのですから、どんなコーヒーでも決して粗末に扱うことはなりません。コーヒーだけではなく、全ての産物には必ず目の前に存在している経緯、理由があります。私達珈琲屋は、その事をよく理解して「味ヅクリ」「物ヅクリ」をしなければならないと思っています。よって、私は扱う豆の産地や農園に行って「観る」ことがとても大切だと考えています。

私は、扱っている豆のすべての産地にはいけていませんが、歴史的観点から、アラビカ種の起源、始まりの産地を観る事が必要と感じ、エチオピア3回、イエメン4回、インドネシア、ブラジル、ケニア、タンザニアなどのコーヒー産地視察巡りをしてきました。
そういった意味でもインドはとても重要な産地ですので、是非行きたい国なのです。

珈琲は嗜好品!


また、どんなに豆が上質でも、焙煎や淹れ方でも随分違ってしまいます。豆が10大切なら、焙煎も10大切で、淹れ方も10大切なのです。しかし、どんなに学習し経験を積んで、素晴らしいと思うカップコーヒーが出来上がっても、全ての人の好みとはなりません。最終的には、飲まれる方はその日の気分で自分勝手に飲みますので・・・。

でも、正解はないのでそれでいいのです。

近年、焙煎機も向上し、焙煎セミナーもあり、焙煎マニュアル本などもたくさん出ていますので、ある程度のレベルの珈琲焙煎技術が短期間で習得できるので、最近はそういった方々が自家焙煎珈琲店を多く出店しています。新鮮なコーヒーを扱う珈琲屋が増えるのはとても良いことだと思いますが、豆を売るだけではなく、「コーヒー文化」も同時に伝えていただきたいと思っています。

私は、一般の方に行う珈琲教室とは別に、毎月1回、喫茶店の店主を集め焙煎講座を開催して、「自家焙煎珈琲店を増やす」という講座を2年以上行っています。講義は、焙煎の技術だけではなく、珈琲の歴史や文化、背景なども一緒に学びます。

どこでも手軽にコーヒーが飲める時代になった今だからこそ、私達珈琲屋は、飲んでいただくだけではなく、コーヒーにロマン(物語)を加味しなければならないと、私は思っています。 焙煎や抽出にしても豆や粉との対話の中で、それぞれのロマン(物語)がなくてはなりません。

インドモンスーンでしたら、その昔、大航海時代に何か月もかけ苦労してヨーロッパに運んだ時に偶然できた産物のコーヒーだということなど、当時のコーヒー事情や背景を一緒に伝えていくと、飲むだけのコーヒーが何かロマン(物語)が付加されて、さらに味わいが深まりますよね。

それが珈琲屋の重要な役割の一つだと思っています。

インドモンスーンは多くの焙煎士が深く焙煎しています。深煎りにすると苦味がとても柔らかで優しい香味になります。浅煎り、中煎り、深煎り、それぞれに良さがあり特徴が違います。浅煎りに焙煎している店はほとんどなく、私は、皆さんがあえてやらない浅煎で、ワラや草のような香りを感じていただけるような香味作りを目指しています。多くの方がやっているなら、私がやらなくても他の方に任せばよいと考えています。

何でもありですので自分の感性を信じ、YAMADAさんが豆と対話して焙煎し、お客さんに味わっていただきたいYAMADAさんの味作りをすれば良いのです。その香味に歴史やトレーサビリティ(生産加工及び流通経路などの履歴書)などの調味料を加えると、何年後には支持してくれる方が増えていくと思います。店創り、味創りは時間をかけて、熟成という他の店にはない香味が加わるのです。

インドは歴史的に見ても産地としても豆にしても誰に何と言われようが悲しくなるようなことは何もありませんので心配いりません。インドの豆はロブスタ種の生産が多く、確かに今まで日本には良いアラビカ種の豆が継続して入荷していませんので、なじみがなく誤解されていたように思います。

インドモンスーンはスカスカの豆?


インドモンスーンの歴史的背景を知らない方が、豆だけ見てスカスカというのでしょうね。豆だけしか見ない方はそういった考えになるのです。水分を抜いたスカスカの豆でなければある意味インドモンスーンではないのですから・・・。

でもこれで、これからのYAMADAさんの役割がはっきりしてきましたね。日本におけるインドコーヒーの誤解を解き、歴史や産地や豆の魅力を紹介し、良い豆を提供し続け、多くの方々にインドの良さを知っていただくことではないですか?誰にでもできることではありません。インドの農園の奥様YAMADAさんだからできることなのです。

時間はかかりますが少しずつ知っていただきましょう!微力ながら応援させていただきます。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

インドコーヒーの良品が、日本で当たり前に飲めるようになる日はそんなに遠くはないと思います。いずれにしても、コーヒーに携わる人は、コーヒー生産者の方々に感謝の念を持って日々コーヒーと向き合いたいものです。

日本コーヒー文化学会ニュース


PS. お陰様でこの度、正式に「日本コーヒー文化学会」の常任理事に就任しました。
   これからは、精一杯日本のコーヒー文化の向上に精進いたしますので、
   皆様の、ご指導ご鞭撻を賜りますようお願い申し上げます。

おすすめ情報