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伊藤博康のテツな“ひろやす”の鉄道小咄

「モー太郎弁当」開発秘話 駅弁屋六代目ぴーちゃん8

2022年9月8日

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昭和34年発売からの定番「特撰元祖 牛肉弁当」


新たな定番駅弁となる「モー太郎弁当」の容器は概ね決まりました。その容器づくりと並行して、弁当本体についても、もちろんピーちゃんは試行錯誤を繰り返していました。昭和34年発売からの定番「特撰元祖 牛肉弁当」に代わる駅弁を作るのですから、しっかりとした方針を立てて作り込んでいく必要があります。

「特撰元祖 牛肉弁当」は、黒毛和牛を網焼きした焼肉が2枚あり、ご飯と惣菜を詰め合わせた弁当です。松阪駅の駅弁屋として黒毛和牛を外すわけにはいきません。でも、方向性を変える必要があります。そこで、丼物をイメージしました。

駅弁の基本は幕の内に代表される割子で、白いご飯とおかずの組み合わせです。それに対して当時、ご飯に具材をのせる丼物も流行っていました。丼物だと、肉を2枚のせて…というわけにはいかないので、牛丼風にロースと赤身とバラ肉を組み合わせ、そこにしょうゆとお酒とみりんで味付けをして炊いてみました。

できあがった肉は…牛くさい!
これでは売りに出せません。

新たな駅弁は丼物をイメージして、3種類の肉を合わせて煮る


どうしたものかと考えたとき、「特撰元祖 牛肉弁当」で加えている土生姜の絞り汁を思い浮かべました。隠し味に加えているものです。そこで、土生姜を“針しょうが”という千切りよりさらに薄く細かく切ったものをくわえてみました。これが効果てきめん! 牛くささが消えました。その牛肉を、冷まして様子をみます。駅弁は冷めてから食べるものなので、冷ますとどうなるかは重要です。

すると、ベタッとした牛肉になってしまいました。ツヤがありません。松阪の黒毛和牛は脂が甘いのですが、その脂が冷めるときに調味料を吸い込んでしまうそうです。これが、ツヤがなくベタッとした見た目になる原因です。

(左)秘伝のタレ、(右)炊き終えた肉に2番ダレを加える


さて、どうしたものかと思った時に、これまた「特撰元祖 牛肉弁当」のノウハウが助けてくれました。秘伝のタレにとろみをつけるための片栗粉を加えるのです。その片栗粉の分量が決め手となるので、来る日も来る日も試行錯誤しました。片栗粉の分量を変えると味が変わるため、その都度調味料のバランスも変えなければなりません。

こうしてようやくできたドロドロのタレを、2番ダレとして加えることにしました。まずは秘伝のタレで焚き、味付けができた牛肉をトレーにのせてから2番ダレを加え、混ぜることで上ダレとします。こうして、作り立てはもちろんのこと、冷めても美味しい、見た目も良い「モー太郎弁当」ができたのでした。

見た目も味も吟味された、音の出る駅弁「モー太郎弁当」


短期間にこの新商品ができたのは、ここまで記してきたとおり「特撰元祖 牛肉弁当」があったからでした。この大先輩のノウハウを応用し、味と見かけの見本としたからこその商品ということでも、正当なあら竹商店の駅弁二代目といえましょう。

さらに、丼物としたことで、一気に多くの数が作れるようになりました。駅弁は需要の波が大きく、注文に合わせて1個ずつ作るときもあれば、駅弁大会や団体向けにまとまった数を作ることもあります。それだけに機械化が難しく、手作りをしています。割子式だと、各枡に肉・ご飯・お惣菜と決まった量を少しずつ入れていくことになります。それが、丼物としたことで、ご飯を入れて、そのうえに炊き上げた肉をのせるだけで良くなりました。

この作業の効率化は、発案当初から目指したものということですが、結果は大正解でした。さすがは、ぴーちゃん!

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