七夕のお願いは何に書くの?笹と梶の葉っぱのお話。
2022年6月8日
季節の移り変わりは早いもので、気が付けばもう6月。
節句の行事としては、あとひと月で七夕を迎えます。
7月7日、七夕というのは、実はお盆とも関係があったり、宮中行事と民間行事とではかなりニュアンスが違うものだったりと、意外と奥が深いものです。以前、中国から観光に来られた若いお客様に話を聞いてみたところ、「七夕は恋愛の日」「バレンタインと同じような行事」ということを教えてもらいました。今の日本の七夕とは少しニュアンスが違うようにも感じます。
さて今回は、七夕行事に使われる〈葉っぱ〉の話です。
□多く使われるのは「笹の葉」
現在では、七夕のお祭りの時には、笹の葉に願い事をしたためた短冊を吊るします。江戸時代中期頃には、各地で七夕祭りが行われていたそうで、その頃には、すでに笹や竹に短冊を吊るしていたようです。
笹や竹については、日本の伝統行事には欠かせないものです。本当に、いたる所に登場します。七夕だけではなく、神社で行われる神楽の持ち物、家を建てる時の上棟式、漁師さんの大漁旗の天辺、かつては鯉のぼりの竿の先にも付いていました。
笹や竹には神様がおりて来るとも言われ、神聖なシーンでは多く使われていることが分かります。なおかつ、日本国内どこでも生えている上に成長が早いので、民間人でも手軽に用意することが出来たのでしょう。そのようなところから、七夕でも笹竹が使われるようになったのだと思われます。
□梶の葉と乞巧奠
さて、庶民の間では笹竹がメインの植物であっても、貴族の間では違う植物を使っていたということをご存知でしょうか?
それは「梶」の葉です。
古代中国で行われていた7月7日の行事、『乞巧奠』(きこうでん)。これが奈良時代頃に日本にも伝わったとされています。乞巧奠というのは、織姫(織女)にちなんで、機織りや手芸、詩歌の上達を願う行事です。この乞巧奠が宮中などで行われる際に、願い事をささげるために使われたのが「梶」の葉なのです。
梶の葉に願い事をしたため、それを水を張った「角盥(つのだらい)」というタライに浮かべることで願いを天に届けるというのが、乞巧奠での慣わしとなっています。
今でも、梶の葉をデザインした飾り物が造花師によって沢山作られていますので、どこかで見かけたら「七夕の飾りだね」と感じてもらえると嬉しいです。
□梶の葉は近縁種も貴重な植物
ところで、梶(カジノキ)は「バラ目・クワ科・コウゾ属・カジノキ」と分類されます。近縁種には「楮(コウゾ)」があります。楮は、和紙の原料として欠かせない植物で、実は梶の木からも和紙の繊維原料を採取することができます。
この、梶と楮の判別がなかなか難しいのが今の私の悩みの種になっています。実は梶も楮も、気に留めていると、あちこちにそれらしい木が生えているのです。神社の境内とか、名古屋城とか、中日新聞さん本社の敷地内とか…。特徴的な葉っぱですので、一度探してみて下さい。
ちなみに、梶と楮が属する「クワ科」の「桑」は、絹糸を作るためのカイコのエサになります。梶、楮、桑、どれも日本の文化には決して欠かせない大切な植物です。
文化の豊かさが、このような自然の豊かさとともにあって欲しいと願っています。