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芸術は漠然だ!~斉と公平太のムダに考えすぎ~

芸術人類学?ライオンマンとライオン丸

2020年7月9日

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参考資料の市販の人形、中央奥のみ紙粘土で作製


◇君はライオンマンを知っているか?4万年前の彫刻像


突然だが、皆さんは「ライオンマン」を知っているだろうか?

雑誌ニュートンには下のように説明されている。
「マンモスの牙を材料に作られた約4万年前の彫刻像です。ライオンの頭と人間の胴体をあわせもつことから「ライオンマン」とよばれています。」
<雑誌ニュートン(2019年1月号)より引用>

そしてさらに唐突だが「ライオン丸」をご存知だろうか?

「ライオンマン」「ライオン丸」は、似ているようでちょっと違う。
「ライオン丸」は今から約47年前に放送されていた特撮ヒーローである。

今回のコラムはこの「ライオンマン」と、そして「ライオン丸」が、関係ないようで関係あるかもよ?ということについて書いていく。

◇筆者による「偽ライオンマン」

筆者が紙粘土で作った偽ライオンマン


まずライオンマンがどのようなモノかご覧いただきたい。

上記画像はライオンマン公式サイトの画像を見て僕が紙粘土で作った偽ライオンマンだ。本物の大きさは30cmくらいだが、この偽ライオンマンは20cm、比率もデタラメだ。本当は本物の画像を紹介したいが、著作権の関係でできないので作ってみたのだが、あんまりというか、だいぶ似てないので、下記のライオンマンの公式ページのリンクを見て、本物のライオンマンの画像を確認して欲しい。

ドイツのウルム博物館のライオンマン公式サイト
http://www.loewenmensch.de/lion_man.html
また、ライオンマンについて書かれた日本語の記事では、沖島博美さんの書かれたこの記事がわかりやすかったので、リンクを貼っておく。

世界最古の彫像ライオン人間(2015/04/18)
https://www.ab-road.net/europe/germany/ulm/guide/09705.html
(2021年6月に確認したところリンク先の記事がなくなっていました)

◇雑誌ニュートンとライオンマン


実は、2月のコラムの中にも「ライオンマン」について記述はしたが、詳しくは触れなかった。

『新説!珍説?美術の始まりは175万年前の「石器作り」?』(2020年2月21日)

雑誌ニュートン(2019年1月号)


このとき引用した雑誌ニュートン(2019年1月号)にライオンマンは写真つきで紹介されていた。ライオンマンは「人類による最古の彫刻として知られています。」と書かれている。

◇西洋美術史とライオンマン


恥ずかしながら、僕は、このニュートンを読むまでライオンマンの存在を知らなかった。言い訳するわけではないが、大学の西洋美術史の教科書として使用していた美術出版の西洋美術史にも、「ライオンマン」は載っていなかった。今、自分が持っている美術出版の西洋美術史、2002年増補新装の2004年第4版にも載っていない(なぜ載っていないかは後述する)。

美術出版の西洋美術史


◇芸術人類学とピープロ


ここで突然だが、50代前半の男子AくんとBくんが喫茶店で会話をしているところを想像してほしい。

A:「Bくん特撮ヒーローが好きなんだって?どんなの?古いやつ、最近のやつ?、スーパー戦隊シリーズとか?平成ライダーとか、平成ウルトラマンとか?俺はね、スパイダーマンが好き。もちろん東映のスパイダーマン!マーベラー!チェンジ!レオパルドン!」

B:「僕も、古いやつっすね。最近のは詳しくなくてウルトラマンとか仮面ライダーとかも普通に好きですけど、僕はピープロのとかのが好きですね」

ピープロと聞いて、ある種の畏敬の念を感じる人もいることだろう。

「通称ピープロ(株式会社ピー・プロダクション)」この会社こそが、ライオン丸を制作した会社である。

この架空の会話で「ピープロ」のニュアンスが伝わることだろう。(伝わんね〜よという声も聞こえてきそうだが)

ライオン丸には「快傑ライオン丸」と「風雲ライオン丸」の二種類があり、4万年前のライオンマンは、風雲の方のライオン丸に似てるのでは?と思われるが、今回は単に合わせて「ライオン丸」として話を進める。

「快傑ライオン丸」は、今から約47年前(1972年4月1日〜1973年4月7日)にフジテレビで放送された等身大の特撮ヒーローだ。姿は「ライオンの頭と人間の胴体をあわせもつ」だ。(下記画像参照)

「快傑ライオン丸」(左)と「風雲ライオン丸」(右)フィギュア©️ピー・プロダクション


下記画像左の『「電人ザボーガー」&ピー・プロ特撮大図鑑』の表紙を見て察してほしい。ピープロの電人ザボーガーのリメイク映画の公開に合わせて出されたムック本で2011年発行、今から9年前。

『「電人ザボーガー」&ピー・プロ特撮大図鑑』(左)『ピー・プロ70’sヒーロー列伝②快傑/風雲ライオン丸』(右)


この本にはライオン丸の全話の怪人がカラー掲載されている。また、杉作J太郎さんもピープロのファンということで「ピー・プロ論」と題して、杉作さんのインタビューが掲載されている。これでどんな本か、ピープロがどんなものか、わかる人にはわかってもらえるだろう。

画像右の『ピー・プロ70’sヒーロー列伝②快傑/風雲ライオン丸』は2000年発行で、今から20年前の本だ。放送からは27年。昔のテレビドラマの全てがこのように書籍化されるわけではない。これは根強い人気がある証拠だろう。

◇4万年前のライオンマンとライオン丸は関係あるのか?


4万年前のライオンマンが復元されて展示されたのが2002年ということを考えれば、ライオン丸が直接は影響を受けてはいない。関係ないと言ってしまえば、それまでだ。しかし、人類的な視点で立って見るならば、繋がっていると個人的に思っている。4万年前、ライオンマンが作られた理由も、「宗教」「呪術」「共同体のシンボル」等言われているが、僕はそれとは別の理由を提唱している。それは、


「4万年前にもピープロがあった説」だ!!


「ざけんなよ、デタラメもほどほどにしろ!4万年前にピープロあるわけないだろ!」と怒られそうだが。

まあ、4万年前にピープロがあったというのは、確かに言い過ぎかもしれないが、しかし、つまりは4万年前も1972年も2020年現在も人類として共通する何かがある、ということが言いたいのだ。

「それは現代人が現代人の思考として古代の作品を特撮ヒーローみたいだと解釈しているだけだろ!素人の考えだよ!シ、ロ、ウ、ト!の!」

と言われると思う、それもわかる。

しかし、呪術や宗教だという解釈も、現代人が現代人の頭で考えた合理的な理由を古代人にあてはめようとしているにすぎないのではないだろうか?

仮に、目的が呪術や宗教だとしても「ライオンマン」である理由というのは、結局は合理的に説明できないのだ。理由としては、ライオンが強いからとか、カッコイイから、という事になるだろうが、しかしそれでは「ライオン」でもいいわけで、「ライオン人間」「ライオンマン」であるということの説明にはならない。その理由は、やはり「ライオン丸」を生み出したり見たりしている現代人の心の中にあるものと、同じなのではないだろうか?

資料としての美術史は、新発見で改訂されるかもしれないが、改訂の必要のない人類が無意識に伝達してきたビジュアルイメージの蓄積、その歴史は現代に繋がっていて「古代のライオンマン」と「ライオン丸」を繋いでいるはずなのだ。

「快傑ライオン丸」ミニソフビ 


◇巨人の肩の上に乗ったり、乗らなかったり


『巨人の肩の上に乗る』という例え話がある。後で紹介する参考資料の文中にも出てくる(しかも2冊も)、最近ネットでもこの例えをよく見かける。大雑把に「歴史の蓄積の上に立っている人類」と解釈することができるだろう。

「ライオンマン」と「ライオン丸」を見ていると、巨人の肩に乗ってる状態と巨人の肩に乗っていない状態が同時に合わさったような気持ちになってくるのだ。

そして、そんな気持ちにさせるものが、もしかしたら「芸術」ということなのかもしれない。

________

ここからは補足と参考資料の紹介である。
補足(1)
まず何故、西洋美術史、2002年増補新装の2004年第4版にも載っていないかを説明しよう。
「ライオンマン」は
1939年にドイツで発見されて
1969年に再発見され
2002年に復元されて展示
2013年に今の形で復元された
つまり、書籍等に掲載されるとしたら、2002年以降ということで、
2002年改訂版に載っていないと推測される。
今後改訂されて掲載されるかもしれないし、されないかもしれない。

以下の2冊は、沖島博美さんが記事の中で紹介していたライオンマンが掲載されている本だ。

『人類進化の700万年 書き換えられる「ヒトの起源」』著者:三井誠 2005年発行
「全集 日本の歴史 第1巻 列島創世記」著者:松木武彦 2007年発行

日本で2005年と2007年に出版されて「ライオンマン」が掲載されている。この2冊は美術の本ではない。僕が知っている美術系の本でライオンマンが掲載されているのは

「芸術人類学講義」鶴岡真弓 編 ちくま新書 2020年3月10日第1刷発行

この本では、ライオンマンが「今から四万年前、」「 ラスコー壁画よりも古い」という風に紹介されている。これは2020年発行だ。

僕は、2005年発行の美術系の本で「ライオンマン」が紹介されているものがあるのかどうかが知りたい、と思っている。

それは何故か?

それは美術史というものに対する僕の疑念からなのだ。

僕個人は、美術というのは美術史の知識なしに鑑賞することは不可能という立場だ。これに対しては、色々な意見があるだろうし、めんどくさいので、いままでコラムに書く際は、明言せず回りくどく曖昧に書いてきた。この立場は特に珍しい立場ではない。わりとよくある考えだ。ただ、そのよくある考えと少しだけ違う点があるとすれば、僕は美術史なしに鑑賞はありえない、と思っていると同時に、美術史自体も信用できないという考えなのだ。

細かい話になるが、ここでもう一つ別の問題がある。美術における「平面作品」と「立体作品」の違いだ。これについて書くと、長くなるので割愛するが、これも実は「ライオンマン」の取り上げられ方に影響していると考えている。

「ザ・ライオンマン」 ソフビ人形 ©️原作:梶原一騎 作画:辻なおき


補足(2)
このコラムのトップ画像の中に、タイガーマスク( 原作:梶原一騎 作画:辻なおき )に登場するザ・ライオンマンの人形が写っているが、本文では触れていない。
ザ・ライオンマンは、プロレスラーでライオンの覆面を被っているという設定だ(ライオン丸のほうは変身して本当にライオン丸になる設定)。そして、 主人公はあくまでもタイガーマスク。この理由により、梶原一騎作品の影響力の絶大さは認めるものの、今回のコラムでは、このザ・ライオンマンについては取り上げなかった。しかしながら 「ザ・ライオンマン」のソフビは、なかなか造形的に素晴らしいので、購入したソフビの 画像を載せさせて頂いた(ヤフオクで落札しましたので、履いているブーツの色は右と左で違いますが、本来は両方同色らしい)。

補足(3)
ライオン丸の参考文献として購入した
『アニメック15号』 昭和56(1981)年2月(日本特撮映画史快傑ライオン丸後編という内容の記事が掲載されている)
『ピー・プロ70’sヒーロー列伝2快傑/風雲ライオン丸』 2000年発行
『「電人ザボーガー」&ピー・プロ特撮大図鑑』 2011年発行
購入しなかったが
「スペクトルマンvsライオン丸―うしおそうじとピープロの時代」1999年 (オタク学叢書)
「ファンタスティックコレクション №17 ピープロ特撮映像の世界 マグマ大使 スペクトルマン 快傑ライオン丸 鉄人タイガーセブン」 1980年
という本もある。

1972年放送の番組が8年後に書籍が出て、さらに20年後も30年後も出ているということを本文でも「人気ある」と説明してしまったが、現在放送のテレビドラマとの比較は社会におけるメディアの変容で単純には比較できない。しかし、これは歴史化する作業を数年おきにしていると解釈することもできるのではないだろうか。

補足(4)
今回このコラムをアップする前に確認のため、知り合いに読んでもらったら、「ライオン丸」も「タイガーマスク」も知らないという反応だった。「ライオンマン」も「ライオン丸」も「タイガーマスク」も「昔のもの」で「知らないもの」という意味では同じかもと思ったりもした。

以上!補足という名の蛇足でした!
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以下参考文献

参考資料


参考文献 一覧
(画像左から)
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◎アニメック15号 昭和56(1981)年2月発行 ラポート(株)

◎『電人ザボーガー』&ピー・プロ特撮大図鑑 (洋泉社MOOK 別冊映画秘宝) 2011年11月14日発行 洋泉社

◎『ピー・プロ70’sヒーロー列伝②快傑/風雲ライオン丸』 2000年9月21日初版第1刷発行 ソニー・マガジンズ

◎「文化進化の考古学」  編著者:中尾 央 、松木 武彦、三中 信宏 
2017年8月5日第1版第1刷発行 勁草書房

◎「文化人類学の考え方」著者:米山俊直 昭和43(1968)年6月16日第1刷発行 講談社現代新書

◎『人類進化の700万年 書き換えられる「ヒトの起源」』 著者:三井誠 2005年9月20日第1刷発行 講談社現代新書

◎「芸術人類学講義」鶴岡真弓編 2020年3月10日第1刷発行 ちくま新書

◎「全集 日本の歴史 第1巻 列島創世記」著者:松木武彦 2007年11月14日初版第1刷発行 小学館

◎「増補新装 カラー版 西洋美術史 」監修:高階 秀爾 2002年増補新装、2004年第4版 美術出版社

◎「ゆうやけを見ていた男 評伝 梶原一騎」 著者:斎藤貴男 1995年1月30日発行 新潮社
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トップ画像の人形
左から
◎「ザ・ライオンマン」 ソフビ人形 ©️原作:梶原一騎 作画:辻なおき

ピー・プロ特撮ヒーロフィギュア ユージン特撮ヒーローコレクションSR
©️ピー・プロ
◎「風雲ライオン丸」
◎「鉄人タイガーセブン」
◎「快傑ライオン丸」

◎「快傑ライオン丸」ミニソフビ 
◎「快傑ライオン丸」ミニソフビのパッケージ

参考、引用させて頂いた著作の著者、人形を制作したメーカーの皆様に感謝と敬意を表します。

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