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高橋五郎の日本一やわらかい中国経済のはなし

この先の中国経済はどうなるのだろうか?(15)―コロナ後、中国が世界経済をリードする-

2020年7月7日

毎年3月に開催される全人代が5月22日からの一週間となり、しかも、毎年の「政府工作報告」ではかならず示される当年のGDPも、今年は片りんも李克強の口からは話されませんでした。前年比の第一四半期はマイナス6.8%という大きな落ち込みでした。2020年全体はどうなるのでしょうか?

それはともかく措いといて、2020年の世界経済リードの主役が中国になることはほぼ、間違いがない感じになってきました。世界的に、新型コロナウイルスの鎮静化はまだ見通せません。とくに世界一の経済規模のアメリカでは、毎日5万人もの感染者が発生し続けているのですから、一度、緩めた経済活動は再び元に戻ることだってありうることが十分に予測できそうです。あれもこれもトランプ一人のために起こったことといってもいいくらい、あの人は、コロナ封じ込め対策について、あまりにも無防備・無策、“大統領選ファースト”すぎました。これ、“なんとかファースト”とか騒いだどこかの首長のいまのやり方と似ていませんか?

中国でも、北京の新発地卸売市場から最近、コロナウイルスが市中に拡大、この市場のある区域一体と河北省保定市の一部がロックダウンされました。この卸売市場には、私も何度か訪れたことがありますが、面積はばかでかく、農畜林産物から加工食品まであらゆる種類の食料品が揃えられ、国産品から輸入品まで、すそ野は広い。中国の卸売市場は日本とはちがい、荷受業者が各地の食材を一か所に集めセリをして取引するようなことはなく、個別の業者がブティックのように店を張り、そこに、仲買業者や小売の代理業者が買い付けに来る相対方式ですから、その賑わいと商圏の広さ、業者の多様さは計り知れないくらい多いです。

今回にかぎらず、中国では、いつ、今回のような感染が再発してもおかしくはありません。今後、国内の人の移動はますます自由になり、空港も徐々に再開していくでしょうから、そうなると世界中から人がやってきて、リスクは簡単には消えないでしょう。

それでも中国が世界経済のリード役になると見る根拠があります。前回、貿易が大きな被害を受けていると書きましたが、貿易は相手のある話であり、今後も大きな変化はできない可能性がありますが、貿易自体、中国のGDPに占める割合は韓国などと違い、純輸出がGDPに占める割合はわずか1.5%にすぎません。

もちろん、いつか書いたように、輸出と輸入の金額規模とこの1.5%には直接の関係はありません。2019年度の経常収支は1兆4,805億元の黒字でしたが、この額は、海外取引の結果の金額であって、たとえば輸出3兆元、輸入1兆5,195億元で差し引き1兆4,805億元でも、輸出30兆元、輸入28兆5,195億元で差し引き1兆4,805億元でもよいのです。
ですから、海外との取引が大きい中国の場合、純輸出がGDPの1.5%でも、裏には大きな経済取引が隠れていることになりますから、世界経済に与える中国の存在は大きいということになります。

その中国が国内経済の回復に向かって行くと、世界経済のリード役になりうる、というのが私の見立てです。中国自身は世界経済のために頑張ろうなどと思っているかどうか分かりませんが(たぶん、そんなことは思っていず、自分のために頑張らないとやばいと思っているだけでしょう)、結果としては、そのような効果があるにちがいありません。

コロナウイルスが席巻した中国で、そこから這い上がるために、中国が打った手とはどんなものがあるでしょうか?

まず政府関係の文書に、しつこいくらい現れる「六穏六保」というスローガン。なんのことかと調べると、「六穏」とは①雇用の安定、②金融の安定、③貿易の安定、④外資の安定、⑤投資の安定、⑥期待される仕事の安定のことのようです。

また「六保」とは、①国民の仕事の確保、②基本的な生活の確保、③市場主体の確保、④食料・エネルギーの確保、⑤サプライチェーンの確保、⑥行政サービスの確保のことと思われます。

スローガンですから、意味不明の言葉や穏と保の関係、ダブりなど、十分に練られてはいないようなところもありますが、これが、いまの中国政界や指導者内ではもっとも流行りのスローガンのようです。きっと、あのえらいお人が言い始めたことばではないでしょうか。

この掛け声のもと、①2.5兆元におよぶ企業減税、②5,000億元の増値税・企業養老保険負担の軽減、③一件100万元、合計4,000憶元の中小・零細企業や農業経営向け政府担保融資、④1月~6月30日までに償還期を迎える中小零細企業の借入元利金の償還猶予、昨年同期を1兆6千万元うわまわる3兆7,500万元の政府特別債の発行などが実施に移されました。日本の10万円や企業特別給付金のような、国民に向けた直接の給付金はないのですが。

ちなみに2020年5月時点における政府債などの発行状況は表のようになっています。

表 債権発行額


政府債には地方債も含まれると思われますが、昨年の同じ時点に比べ2倍の発行額です。参考まで社債を見ますと、これも2倍ですね。政府が集めた資金は、今後、公共投資や減税の原資になるのでしょう。

現在の経済指標は、いずれも、コロナ問題が起きるまえの状態に回復しつつあります。おそらく、第二四半期のGDPは前年比プラス、その幅は少なくとも1~2%ではないかと思います。7月半ばには、4~㋅期のGDPが公表されるはずですので、いまから楽しみにしています。

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